第9話 今昔を紡ぐ人たち

最終更新: 2018年7月21日





清らかな小川が旧市街をぐるっと抱きしめるように流れ、青々と揺らめく藻をなでながら鴨がたゆたう。




「プロヴァンスのベネチア」という異名を持つほどの、南仏のうつくしき村。

リル・シュル・ラ・ソルグ(L'lsle sur la Sourgue)のことを知らない骨董愛好家はいない。




南仏の街アヴィニョンから列車を乗り継ぐと、この小さな村にたどり着くことができる。

徒歩でも一周できるほどの小さなこの旧市街には、350軒もの骨董商がひしめき合って、時空を超えたロマンスを生業としている。毎週日曜日に行われる骨董市の規模はとても大きく、また、この街を「骨董の村」として有名にしたのは復活祭と真夏に行われる大骨董市。

小川に沿って、数え切れないほどの露天スタンドが立ち並び、文字通り、村中が骨董で埋め尽くされる夢のような日々。

1966年から始まって、今年の夏でなんと105回目を迎えるそうだ。







初めてこの村を訪れたのは、確か20年ほど前のこと。

ライフワークとして、世界のどこに行っても、骨董と出会える場所を探すことが習慣になったのはいつの頃からだろう。







初めて学生としてフランスに暮らしたときに、この村のことを知り、すぐに旅の計画を練ったことを覚えている。

あの頃とは何も変わらず、いつ訪れても美しい小川が迎えてくれて、本当に時が止まったよう。








旧市街の街並みはいにしえのままで、その上に古いものを売る店が軒を連ねているので、タイムマシンに乗って過去にやって来たのかと見紛うほど。

過去と現在が交錯する地。


そして、何と言っても南仏の光はうつくしい。





7つの小さなグループでこの村の中に更に「小さな骨董村」を形成している骨董商たちがいる。

彼らのディスプレーは、他では類を見ないほどに、とても繊細で丁寧。

得意分野の時代の古物を集めて、世界観を存分に発揮した店作りをしているところも、見どころの一つ。







土壁の色がもしもサーモンピンクであれば、マラケシュかと錯覚しそうな旧市街の路地をくねくねと歩いて、いつものあの場所へ。











この村に来ると必ず立ち寄るのが、旧市街の中心にある教会に面した広場にある、小さなカフェ「Café de France」。鈍く光る亜鉛のバーカウンターには地元の人たちがいて、珈琲やパスティスを飲みながら世間話をしているような、いわゆる街角カフェ。こういうカフェが一番落ち着く。



夏に晴れているときはテラス席を選ぶのが常。ところが、このカフェでは好んで店内の席、それもできる限り奥の方に座ることにしている。


なぜならば、店内からみる外の光と、窓枠のフォルムの影のコントラストを愉しむことができるから。

そう、いわゆるプロヴァンスの陰翳礼讃。

午後の優しい光が、そっと店内に滲む時間。

教会の鐘が神々しく3つ、村に響くのが聞こえた。



南仏の太陽が注ぐ陽だまりの影絵。



- Address -


Café de France

14 Place de la Liberté

84800 L'Isle sur la Sorgue

FRANCE




リル・シュル・ラ・ソルグまで行きたくともパリからは若干遠く、でもあの村が恋しい。

そういうときに立ち寄るお店が1軒ある。リル・シュル・ラ・ソルグの昔ながらの骨董商とパリジェンヌのエスプリを織り交ぜたような、あのお店へ向かう。


オペラ大通り(Avenue d'Opéra)を北から南へ。



ヴァンドーム広場とチュイルリー公園の間を縫

うように東西にはしるサン=トノレ通り(rue Saint-Honoré)を西方向に歩みを進める。この辺は趣味のいいブティックが立ち並ぶ、パリの中でも感度の高いエリア。



しばし、西に向かうと凝然と鎮座するサンロック教会(Église Saint-Roch)が右手に現れる。




教会に向かって左手のサン=ロック通り(rue Saint-Roch)に歩みを進めると、すぐ右手に現れる一軒のブティック。「Brigitte Tanaka」というお店がそれだ。





振り返ると、今の時期はすぐそばにあるチュイルリー公園(Jardin des Tuilleries)の夏の風物詩の観覧車が、ゆっくりと弧を描いていた。




きっと昔々のその昔は、教会の一部であったのだと思う。教会に抱かれるように佇む、パリらしいシックな外観。




扉を開けると、床にはナポレオン3世時代のパンデュールが埋まっていて、大人のための「不思議の国のアリス」の世界が始まることを予感させてくれる。





店内は時代を超えた宝物が美しく並べられて。






「Brigitte Tanaka」はフランス人と日本人の2人の女性で経営しており、二人の本名を一つずつ取って、一人の日仏ハーフのパリジェンヌの名前を作り上げ、店名として名付けたそう。

そのためフランスの品だけでなく、彼女たちのお眼鏡に叶った日本の骨董品や、日本のクリエーターの作品もあり、このところパリの人たちからも注目されている。





古いラケットに鏡をはめ込んでみたり、古いトランクのフォルムだけ利用したスケルトンの箱を使ったミニ植物園がバルコンに置かれていたり、はたまた骨董のお皿に金色の文字で名入れをしてくれたりと、骨董にひと工夫を凝らしリメイクした一点物や、遊び心が詰まったオリジナルデザインのアクセサリーなどなど。

何もかもがパリのエスプリが詰まったセレクション。




パリのどこにもない唯一無二の品揃えの、新しい形のコンセプトストア。







2階へと誘う瀟洒な螺旋階段を上がると、楽しい仕掛けが詰まった空間が待っている。




スケルトンの床から1階の不思議の国を覗く。



頭上を見上げると、そこには満点の星空。






このお店が扱っている品々の中に、歴史ある出版社「Gallimard社」の単行本の表紙をそのままに作られたメモ帳がある。これはちょっとしたプレゼントにもぴったり。



上質な紙でこしらえてあるのでペンの滑りがとても良く、その歴史ある上品なデザイン性から使っていて全く飽きがこない。




前回はパスカルの「Panseé」を、今回はサルトルの「Les Mots」を新しいメモ帳として購入してみた。



前付にはそのタイトルの一文が刻まれていて、細部まで行き届いた逸品。




使い終わった後は本棚に飾っても美しい、その機能美たるや。

徒然日記や文章をしたためたりするのに最適。





ラッピングもショップカードもトリコロールで統一するフランス愛。











- Address -


Brigitte Tanaka

18 Rue Saint-Roch

75001 Paris

FRANCE






過去と現在をつなぐ、パリのリル・シュル・ラ・ソルグ「Brigitte Tanaka」。

パリジェンヌの店主と骨董談義をしに、立ち寄ってみては。



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