第26話 雨やどり回転木馬

最終更新: 2018年12月19日



気まぐれなのは、パリっ子のご機嫌だけではないようで。

空模様も彼らの気分に合わせるように揺れ動き、1日の中に全てのお天気が盛り合わせになる恒例の日々。雨、曇り、晴れ。そして再び雨。全く先が読めない、加えて日照時間が非常に少ない冬将軍がまたもやって来た。




うらめしいまでの雨模様の日々。

それでもこの街は曇り空が似合うようにできているように思う。

雨雲に覆われた空が、灰色で構成された屋根と石壁にしっとりと溶け合うから。




気まぐれな空のご機嫌が直りそうにもなく諦めていると、全ての悪天候を帳消しにするような美しき空を突然に見せてくれたりする。これだからパリ嫌いになれない。





雨が嫌い、なんて言っていたらこの街には住めない。

雨上がりの密かなお楽しみを見つけることは人生を豊かにするのだと言い聞かせ、雨がもたらす小さな幸せを探してみる。



それはたとえば、小道に描かれた水たまりの中のパリを探すことだったりする。

気にしなければ踏み潰してしまいそうだけど、目を凝らすと、見て。

街中のあちこちに美しい街が水面に落とし込まれているから。





水面を追い求めて下を向いて歩いていると、モミの木が目に飛び込んできた。


花屋の軒先からメトロの入り口までに売り場を拡大して、各家庭で飾られるのを待つモミの木が、もこもこと小さな茂みを作っていた。森にいるようないい香りがして、都会のど真ん中にいながらも、もうそんな時期なんだなと鼻先から季節を感じる。



そして、とびきり急ぎ足で訪れる17:00頃に迎える日没。

すると街は一斉に輝き出す。

いつのときも夜の街は宝石箱をひっくり返したみたいに麗しい街だけども、この時期はもっともっと優美で、まるでシャンパンの泡が弾けたよう。














欧州の街角でおなじみの回転木馬。

季節を問わず広場や公園の一角に常設されていて、週末はもちろんのこと、学校が早仕舞いの水曜日には子供たちで賑わう。

大人が乗ってももちろん良い。日没後にひとたび乗れば、街のイルミネーションが視界いっぱいに駆け巡り、まるで自分がシャンパングラスの中の気泡の一粒になったような心地にしてくれる。



とはいえ、雨が降っていたら屋外で回転木馬に乗る気持ちにもなれない。

そんな時のためのとっておき、屋内のアクティビティ。

大人のためのいにしえの《縁日博物館》に行くという手がある。



19世紀末〜20世紀初頭の移動縁日で実際に使われていた美術品級の遊具たちや、それにまつわるオブジェなどを欧州各地から熱狂的に収集した骨董マニアのムッシュー、Jean-Paul FAVAND氏。集め過ぎた結果、パリ南東部ベルシー(Bercy)の巨大な元ワイン貯蔵庫を買取り、数々の回転木馬を始め彼のコレクションを展示品としてではなく、なんと実際にそれらを使って遊び体験することで、当時のムッシューとマダムたちの記憶の中にタイムワープすることができる《縁日博物館》を作ってしまったのだ。










欧州全土の地方都市だけでなく小さな街にも、夏のヴァカンス・シーズンとクリスマス・シーズンには今の時代も《移動縁日》がやって来る。

街の公園や広場に解体された遊具たちを運んで来ては組み立て、回転木馬・観覧車・射撃ゲーム・綿菓子などの縁日を興行することを生業としている人たちが運営する。欧州における季節の風物詩とも言えるこの慣習は、19世紀末から今に至るまで続いていて、20世紀初頭の時代においては、子供のためだけでなく大人のための娯楽の一つとして大変栄えたそうだ。


例えばパリだと、街の真ん中にあるチュイルリー公園(Jardin des Tuileries)に決まって移動縁日が出現する。そしてある日に全ての遊具が解体され運び出され、夢ように跡形なく消えてしまうのだ。


今時の移動縁日のBGMはもっぱらアンプから流れる音楽なのだけども、いにしえの時代には、巨大な紙オルガンを使っていたそうだ。オルガンの裏側で人力で操作することにより、穴の空いた紙の譜面が読み込まれ、1キロ先でも聞こえそうなほどの大音響で音を奏で、縁日を盛り上げていたそうだ。

この博物館に展示されている巨大な手回しの紙オルガンは、1905年頃に作られたというもので裏側には太鼓まで仕組まれた大掛かりな逸品。







表面には瀟洒なアール・デコの装飾が施されていて、見た目にも麗しい。実際に手回しで奏でられた音を聴かせてもらうと、その時代の賑やかな縁日の風景が脳裏に浮かんでくる。










ベルエポック時代と呼ばれ、もっともパリがパリだったと言い伝えられている1879〜1914年頃に作られたという回転木馬に跨って、オルガンの音に合わせてまわる体験だってできる。100歳を優に超えたその木馬たちは、まるで若い盛りの馬のように元気に跳ね回ってくれた。




回転木馬ならぬ回転自転車というものもあり、1897年、英国生まれの御歳121才。






円を描くように繋げられた自転車に各自跨り、みんなでペダルを一斉に漕ぐことで、猛スピードでまわり楽しむ遊具。大人もいつしか子供のようにはしゃいで、一生懸命に足を動かす。ひたすらぐるぐると回っていると、いい歳をした大人がいつの間にかみんな子供みたいな笑顔になってくる。当時の姿のままで、まだまだ大活躍できそうな優良コンディション。








子供の頃にサンタクロースが来るのではと、真夜中まで起きて待っていたあの頃の感情が蘇る。白昼夢のような時間を過ごした帰り道、雪に変わりそうな冷たい雨がイルミネーションを包み込み、黄金色の粒となって頬の上に舞い落ちてきた。


うつくしき雨粒たち。

水たまりを探しながら歩き出した。







- Address -

Musée des Arts Forains(縁日博物館)

53 Avenue des Terroirs de France

75012 Paris

FRANCE

*訪問要予約







« Le rire n’est pas pris au sérieux » Jean-Paul FAVAND

「感じたままに笑おうじゃないか。」 ジャン=ポール ファヴァン



- Music -

" Merry Christmas Mr. Lawrence "

Ryuichi SAKAMOTO



Joyeux Noël !



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