第17話 クスクス曜日vol.2 食べる

最終更新: 2018年12月28日




 金曜日のランチ・タイム。メニュー・ボードに書かれたクスクスという文字が目を惹く。とは言え、外食で満足できたクスクスに出会えたのは、残念ながら数えるほど。ある意味では家庭料理に変えられるものはないかも知れないけれども、特にクスクスに関しては家の味に匹敵するものを供するレストランは極めて少ない。


 クスクスがしっかり炊かれておらず、タブレを作るときの要領で熱湯を注いでふやかしただけのもの。本来であれば手で潰してボール玉にして食べられるくらいにやわらかくなっていなければならないはずの野菜が、まだまだ歯ごたえが強いもの。しっかり煮込まれておらず、具材にスパイスの風味が染み込んでいないもの。エトセトラ、エトセトラ。





 誇るべき国民的料理にもかかわらず外国人観光客がなかなかたどり着けない状況を、日頃からとても残念に思っている。それなので外で食事する際にふとチャンスがあると、メニューの中から率先してクスクスを選ぶようにしている。人生に一度だけかも知れないモロッコ旅行で遠くやって来てくれる友人・知人たちに自信を持って紹介できるような、そして何と言ってもモロッコ人が美味しいと唸って太鼓判を押すようなクスクスを求めて。


 金曜日のクスクス曜日。モロッコ人たちにとっては親密な人たちと集まる安息の日であるところを、かくして親善大使にとってはロケーション・ハンティング日和となる。美食のひと時になるのか、はたまた毒味の雲行きと相なるのか。ビスミッラー(بسم‌الله‎)、神の名において。いただきます。








- Épilogue -



🍴001


 弟夫婦の新婚旅行、親友の誕生日、そして記念日にも。特別な日の特別な場所、特別な人と分け合う特別なメニューは、ジャスミンの香り漂うリヤドのパティオでいただくクスクス。


 レストランではフランス式にひとり一皿をマナーとするところが多く、家庭での食事のように大勢で取り分けするスタイルはあまり見かけない。ひとつの大皿を囲んで食べるのはクスクスの醍醐味でもあるし、「分け合う」というのは、モロッコ人にとっては欠かせない大切な要素のひとつ。看板キュイジニエール サイーダのダイナミックなお料理はどれも絶品だけれども、こんもり盛られたトゥファヤが特別感を演出する大皿のクスクスはとりわけ別格。


 ここでの食事で忘れられない一品は、山盛りのクスクスでお腹いっぱいになったところに出してもらったデザート “果物とドライフルーツのタジン” 。それはまるでオレンジの輪切りに乗せられた、食べられるオブジェだった。



- Address -

Dar Kawa

Kaat Benahid, Derb Ouali, 18

40000 Marrakech Médina

MAROC








🍴002


 非の打ちどころのないクスクスに出会った。ここ4,5年来の大当たり。フェズの旧市街の中にひっそりたたずむカフェ・レストランの、フェズ(Fès فاس)と言えどトゥファヤではなく、白身魚と7種の野菜のクスクス。この街をまた訪れることがあれば次にもぜひ味わいたい、男性シェフ ヒシャムの、繊細でいてマジカルな料理。


 オーヴンで丁寧にハーブ焼きにされた魚を中心に、色とりどりの野菜たちがお皿の上をデコレートする。素材も芽キャベツ、パプリカなど見た目にも愛らしい野菜が選ばれているほか、それだけでクスクスを上品な食べ物へと昇華させるフェンネルの手品のような使い方には目からうろこがこぼれた。クリエイティヴなクスクスでありながらにして、モロッコの家庭料理の基本と愛情が大切に守られている。ふっくらと炊き上がった大粒のクスクスには、料理へのこだわりと誇りが確かににじみ出ていた。


 食後のデザートには、ミントがたっぷり入ったメロンの冷製スープ。この涼を呼ぶスープが、2日連続でランチに通わせた張本人。そのおかげで、ボードにはなかった隠れメニューのクスクスにありつく幸運に恵まれた。次の機会には必ず、ディナーの時間帯にゆっくりフルコースを堪能してみよう。



- Address -

Fez Café(Le Jardin des Biehn)

13 Akbat Sbaa, Douh

30100 Fès Médina

MAROC








🍴003


 行きつけのカフェ、行きつけのエピスリー。決まった八百屋に肉屋、魚屋、そしてパン屋。すべて家のすぐ周りで調達ができる居心地の良い地区。もちろんクスクスが食べたくなった時の行きつけも決まっている。歩いて数十秒の食堂の、金曜日限定メニュー。お昼のお祈りが終わった頃からオーダー可能な売り切れ御免の特製クスクスは、早過ぎたらまた出直し、遅過ぎたら完売。


 学生街のこの辺りは故郷を遠く離れて下宿する学生たちも多いため、若い子たちが家庭料理の温もりを求めて集まってきている様子。それに、意外にも女性客も多い。そう思うもつかの間、きっと彼女たちは玄人なのだろうと仮定した。醸し出す雰囲気からそれと判る娼婦たちが、夕方頃になると遅いランチのためにぽつりぽつりと集まり出す。物憂げにクスクスをスプーンですくっては口に運ぶ仕草と場のアットホームな雰囲気のコントラストに、つい眺め入る。


 さあ、なみなみ注がれたバターミルク、ルブン(لـبـن)がテーブルに出されると、待ち遠しさを覚えて。いよいよ運ばれてくるクスクスは小粒で軽く、ほんのりスメン(سمن)の風味がする。これはバターオイルの一種で、とりわけ来客をもてなすときに使われる。ハリッサは付いていないけれども、よく効く唐辛子がひとつあれば十分。トゥファヤが添えられ、好みでトッピング。


 モスクの周辺、金曜日のランチタイム。モロッコ人で賑わい、そしてもしもみんながクスクスを食べていたら、そこはきっと地元の人たちから定評のある食堂。口コミを重視し、料理にはうるさいモロッコ人の舌が認めているからには、家庭のクスクスの雰囲気を味わうことができるかも知れない。





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