第36話 日常世界旅行



ふと、何処でも良いから旅に出たくなった時。

でも旅に出る時間なんてない。


移民がたくさん暮らす街だからこそ、この街はそういう時にも魅力を発揮してくれる。


それぞれの国の人たちが集って暮らすそれぞれの界隈には、固有の文化が生き生きと息づいている。


サンマルタン運河の西側、かつては娼婦街として名高かかったエリアの南側に、その場所はある。


パリにいくつも残っている18世紀末のパッサージュ(Passage)と呼ばれるガラス屋根の商店街。


そのうちのひとつに一歩足を踏み入れると、スパイスの香りで満ちており、そこがインド人街であることが鼻先からも分かる。



これでもか、とパッサージュに連なるインド料理屋たち。


それらの厨房は実はたった1つしかなく、全ての食堂は裏で1つに繋がっているという。

本当か嘘か、真相は誰も知らぬ都市伝説。



猫が堂々と店先で昼寝する商店で、お気に入りのスパイスを買い込む。


レジ横には、ひっそりといつも美味しいサモサが数種類、必ず揃っている。きっとお料理上手な女性が作ったものだと思う。手料理の味がするから。


「鶏肉のサモサをひとつくださいな。」


決まってここには午後の腹ごなしに立ち寄り、温めてもらったサモサをかじりながらパッサージュを通り抜けするのがいつもの定番。


サモサを食べ終わった頃、旅に行きたい欲が少し収まっているから不思議。

家に帰ったら、新鮮スパイスでカレーでも作ろう。


パリにいながらにして、世界旅行。


次はどこの国へ行こうかな。



- Address -

Passage Brady

33 Boulevard de Strasbourg

75010 Paris

FRANCE




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